新型コロナがもたらした影響は、ビジネスにおいても甚大で、多様な範囲におよんでいます。今日はそのうち、組織内に起きる意識変革について考えてみましょう。 コロナ禍が組織に及ぼした、最大のパラダイムシフトはなにか? それは「コミュニケーション」のあり方を根本から変えたことです。これまで当たり前だったこと ― 会社に通勤し、オフィスで働き、会議室で打ち合わせし、時間になると帰宅する − が当たり前ではなくなったことで、仕事をするためのコミュニケーションに劇的な変化が起こりました。 この打ち合わせ、オンラインでいいかな?それともリアルに会う? これまでは考えもしなかったことを考える習慣ができたことで、私たちは仕事を「反応的」ではなく「主体的」にとらえるようになりました。その結果、私たちは「自分で考えたベストだと思う場所、交流の仕方で仕事をしたい」と思うようになったのです。 ではこの状況は、管理者の目にはどう映るでしょう? それは、組織や管理者個人が持つ価値観によって大きくことなってくるでしょう。大きく3つにわかれると僕は考えています。 ■ 以前の状態に戻したい ▲ ツールとしてテクノロジーを活用する ● 変化の本質に気づき、組織を革新する この3つの考え方を図にあらわすと、このようになります。 今、新型コロナは、あらゆる組織に変革を求めており、いうなれば「組織の学習能力」を問うているのです。では、この3つの選択肢について、もう少し詳しく見ていきましょう。 ■ 選択肢その1 管理主義 [元にもどる派] 管理主義の背景にあるのは「目をはなすと社員はサボるものだ。厳しく管理しないといけない」という価値観です。経営学でいうと、ダグラス・マクレガーが提唱した「X理論」、社員を性悪説で捉える考え方です。 そのため、仕事は管理者の目の届くところでするものであり、リアル勤務が基本。オンラインの場合は、会社が支給したPCで仕事をすることを義務づけ、PCの利用状況を把握する、といった管理システムを導入します。 この考え方は、コロナ禍で社員に芽生えた自律性を殺してしまいます。それが当たり前だった時代はともかく、ポストコロナで管理主義をとることは、離職の誘発、やる気の減退につながる危険性があることを覚悟する必要があります。生産性にもプラスにならないと予想します。(在宅ワークのむずかしいエッセンシャルワークにはこの考察は当てはまりません) メリット:社員の行動を完全に把握・管理できる。サボりを防止できる デメリット:社員の主体性を削ぐ。やる気が減退する。会社と社員の信頼関係が毀損する ▲ 選択肢その2 新管理主義 [成果を測る派] 新管理主義の背景にあるのは、管理主義と近い価値観です。「目をはなすと社員はサボるもの」という価値観のもとで「時間管理ができなくなったので、成果だけで管理できるようにしよう」という考え方です。やはり、マクレガーの「X理論」に基づくものですが、管理主義と違い、合理的なところが特徴です。 コロナ禍で芽生えた社員の自律性は、ある程度受け入れられます。また、既存のマネジメントシステムを大きく変える必要がないので、多くの企業に受け入れられやすい考え方です。具体的には、仕事をジョブ型に再定義し、成果を数値化する管理システムを導入します。 ただし、問題は「成果の見える化」の弊害にあります。近年の経営学では「集団的知性」「ソーシャルキャピタル」「心理的安全性」「帰属シグナル」などに注目が集まっており、チームの生産性には「見えないところ」こそ大切であることが実証されてきたからです。 メリッド:既存の経営システムや価値観を活かし、在宅勤務を促進できる デメリット:チームの生産性に悪影響を与える。チームの学習能力に悪影響を与える ● 選択肢その3 自律主義 [組織を革新する派] 自律主義の背景にあるのは、マクレガーの「Y理論」(性善説) の価値観です。「環境次第で社員は自ら責任を受け入れ、自己を成長させたいと思い、組織に貢献しようとするものだ」という価値観です。VUCAと呼ばれる複雑で先がよめない時代、正解がない時代において、社員が自律的に判断し、コラボレーションしあう考え方は実に美しい。ただし、そこには大きな盲点があることを知る必要があります。 安易に管理主義から自律主義に移行しようとすると、放任組織 ― やる気がある人、違う方向を向く人、仕事をさぼる人などの混合組織 ― になり、やる気も成果も減衰してしまうということです。 「自律主義」にも「求心力」が必要なのです。求心力があって初めて、チームは結束し、ひとつの目標に向かうことができるのです。 「管理主義」における求心力は「予算・ルール・マニュアル」であり、それを「統制型リーダー」がまとめていました。 「自律主義」においては「予算・ルール・マニュアル」を最低限として、組織の「ミッション・ビジョン・バリュー」をその上におくこと。その共有を促して社員を後方から支援する「サーヴァントリーダー」が組織をひとつの方向に導くこと。このふたつの要素があって初めて、自律型組織はイキイキと動き出すのです。 メリット:VUCAの時代に適した、学習する組織に成長できる デメリット:メンバーが自律型組織で必要な知見や技術を学ぶ必要がある おすすめのアクション もし、あなたのチームが「管理主義」「新管理主義」を導入する方針であれば、ジョブ型雇用、数値管理、成果型評価に関する書物や記事から学ぶことをおすすめします。この記事なども参考になるかと思います。 日経新聞記事「ジョブ型雇用、職務明確に 成果で評価しやすく」(2020/7/8) ただし、チームの生産性は「数値化しにくいもの」から生まれること、数値化することで数値化されないものが無視されることを意識して、いかにそれを防ぐかを考えることが大切だと思います。おすすめの書籍は、経営学の名著「学習する組織」です。 もし、あなたのチームが「自律主義」への移行を考えているのであれば、私と考え方が近いと思いますので「みんなの図書館」でぜひお調べください。膨大な資料が無料でダウンロードできるサイトです。 どこから手をつけていいかわからないという方は、無料講座「すごいチームのつくりかた」に参加することをおすすめします。自律型組織のポイントを90分で学べます。 hintゼミ無料体験講座:すごいチームのつくりかた (9/12) 【今日のまとめ】 1. コロナ禍は、組織の根幹となる「コミュニケーションのあり方」を変えた。 2. 私たちは「反応的」ではなく「主体的」な働き方を求めるようになった。 3. 組織は社員の主体性をどう受け止めるか。3つの選択肢がある。 4. 管理主義・新管理主義は、社員は管理しないと働かないという価値観に基づく 5. 自律主義は美しい理想だが、「求心力」がないと放任主義になって失敗する ■ 幸せ視点の経営学を日常に活かすシリーズ ・ 社員を管理すべきか、信頼すべきか。それが組織の分かれ道 ・ 落ち込むか、楽しむか。それが人生の分かれ道 ・「売上を求めると、売上は逃げていく」の法則
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著者ビジネス・ブレークスルー大学教授、現役起業家の斉藤徹です。人を幸せにしたいと願う起業家や社会人を育て、一緒に世界をもっと優しいところにする活動をしてます。 アーカイブ
8月 2021
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