「2018 CNBC Disruptor50」は、ニュース専門局CNBCが毎年発表している世界のディスラプター、トップ50リストである。ディスラプターとは「業界の破壊者」、業界秩序や商習慣にとらわれずに、斬新なビジネスモデルやテクノロジーを市場に持ち込み、驚くべきスピードで顧客を獲得している企業を指す。(詳しくは こちらの記事 をどうぞ) このブログでは、独自の基準で、この50社の「5つのタイプ」への分類を試みた。
今回の記事では「限定した顧客層の心をつかむことで業界を破壊する特化サービス型」のディスラプター9社について、主要なスペックを記するとともに、イノベーションの基本となる「顧客」「課題」「事業の着眼点」についてシンプルな言葉で整理してみたい。
特に特化サービス型の成功企業は、この三点の深掘り、つまり「顧客層を特定し、満たされていない課題を発見し、それを解決する新しいアイデアを着想するか」という3ステップの典型的な成功事例と言えるだろう。 15. Progyny (2015年創業、不妊治療サービス) 子どもがほしくてもできないカップルは深い悩みを抱えている。不妊治療は高額だし、友人にも相談しづらく、孤独に陥りやすい。Progynyはそのような不妊の悩みを解決するために、パーソナルサポートをベースに、体外受精を含む不妊治療の費用補助や相談を提供するサービスを開始した。ただし営業活動はB2B、つまり企業向けの福利厚生サービスだ。社員ロイヤリティ向上に加えて、精神的な安定による生産性向上が期待される効果だ。ニッチではあるが、それだけに悩みが深い。深刻な悩みこそそイノベーションの原点であることを再認識されてくれるサービスと言えるだろう。2015年創業と若い会社だが、推定時価総額はずでに110億円に達しているようだ。 関連記事:データ分析やセキュリティが主戦場に Progyny 20. Peloton (2012年創業、在宅フィットネス) Pelotonは健康思考だがプライバシーを大切にしたい高収入層にフォーカスした。彼らが持つ、自宅で本格的に、しかも飽きずに運動したいという課題に着目。専用自転車マシンを開発し、自宅にフィットネス空間をつくるサービスを開始した。専用マシンは25万円、新製品にいたってはなんと45万円、それに月額4000円以上のランニングコストがかかるにもかかわらず、全米でずでに30万台を完売したという。人気の秘密は手厚いサービスだ。自宅で人気トレーナーのレッスンが受けられる他、仲間と繋がれたり、データを共有したりと、IoTと動画ライブをフルに駆使して構築されているのだ。創業わずか5年で、推定時価総額1500億円とユニコーンの仲間入りを果たしている。 関連記事:NYの超人気サイクルエクサが自宅で受けられる Peloton 23. WeWork (2010年創業、シェアワークスペース) ソフトバンクが出資し、2018年に派手に日本上陸したWeWrokは、推定時価総額で2兆円を超える巨大ディスラプターだ。同社が対象としたのは、個人で仕事をしている人やスタートアップ。彼らがオフィスにもとめているのは単にスベースだけではない。クリエイティブな人たちとつながれる、刺激的なスペースで働く体験を求めているのだ。そのような課題を解決するために、同社ではシェアスペースだからこそできる多様な創意工夫と、WeWork Commonsというコミュニティを提供している。その効果は絶大で、すでに22カ国74都市に274カ所以上の物理的な拠点を有し、会員数は25万人以上に達しているようだ。不動産という極めて古典的な業種でも大規模なイノベーションの余地がある。そんな新鮮な驚きを与えてくれる素晴らしい事例と言えるだろう。 関連記事:新しい働き方を示す「WeWork」 人気の秘密はコミュニティデザインにあり 24. Ellevest (2016年創業、女性専用の投資顧問) これまでほとんどの投資顧問サービスは、高所得者の男性をペルソナにしているものだった。Ellevestはこの盲点をつき、結婚や子育てなど環境変化を不安に感じる女性を対象として、女性のライフイベントをベースにして最適な資産運用をするロボアドバイザーを立ち上げた。暗黙のうちに男性を対象としたサービスは世の中に溢れている。女性の社会進出とともに、女性特化のサービスは発想しやすい着眼点と言えるだろう。女性向けサービス創業2年で推定時価総額は110億円だが、着眼の面白いFinte企業として業界の注目を集めている。 関連記事:金銭的な格差により、女性が経済面で男性より苦労する理由 25. Zipline International (2015年創業、ドローンによる医療品配送) Ziplineはドローン配送にチャレンジするスタートアップだが、車が通りづらい僻地の診療所や病院を対象にした医療品配送にフォーカスしたところが面白く、社会貢献性も高いので注目を集めている。期待が大きいだけに、今後はアマゾンなどと巨大企業との争いになると予想されるドローン配送技術だが、その実験期からブルーオーシャン戦略をとっているのがZiplineの特徴と言えるだろう。 関連記事:ドローンによる医療品配達サービスのZiplineが2500万ドルを調達 29. Flirtey (2013年創業、ドローンによる小売・食料品配送) Ziplineがブルーオーシャン戦略をとったのに対して、Flirteyはオンライン小売や食品配達事業者を支援するという、まさにドローン配送の本丸サーピスにチャレンジしているスタートアップだ。同業界は単価も安くリピートする商材を扱っており、予想される市場規模は巨大だ。すでに米国ではじめて完全自律型ドローンで住宅地への配送テストも成功しており、技術力を武器としているのが特徴だろう。ただしファーストステップでは、より深刻なニーズがある「災害時の救助活動や応急処置キットを送る」という人道支援分野を事業の足がかりとするようで、その点から同社を特化サービスに分類した。 関連記事:新興企業Flirtey、完全自律型ドローンで住宅地への配送テストに成功--米国初 37. Thinx (2011年創業、生理用ショーツ製造) 女性の生理用品といえば、毎月の消耗品購入が必要。そんなイメージを払拭したのが生理用ショーツを開発するThinx(シンクス)だ。同社は三年の開発期間をかけて、抗菌・発散・吸収・漏れ防止の4層を備えたショーツを開発した。同製品は女性のみならず、トランスジェンダーの男性も対象している。もっとポジティブに生理に向き合い、快適に暮らせるようにしたい。そのビジョンを明確にしたニューヨーク地下鉄での広告 −ピンクグレープフルーツの断面やたれ落ちる生卵で生理を表現した− におけるセンセーショナルなクリエイティブが話題を呼び、同社は一躍有名になった。 関連記事:もうナプキンは要らない?NY生まれの生理用ショーツTHINX(シンクス) 45. Fanatics (2011年創業、スポーツグッズ製造販売) スポーツファンであれば、応援しているチームや選手のグッズには目がないはず。同社は熱烈なスポーツファンにペルソナを絞り、ファン向けに特化したライセンス商品やグッズの製造流通、またオンラインECサイトの運営を手がけるスタートアップだ。すでに同社は主要プロスポーツリーグやメジャーメディアブランドに展開し、300以上のオンラインおよびオフラインストアを運営しており、スポーツ用品の世界的な売上シェアにおいて約10%を獲得しているとされている巨大ディスラプターだ。急成長する同社は、創業7年で推定時価総額5000億円近くに達しており、2018年1月には日本にも進出している。 関連記事:本場の米企業に学ぶ スポーツの産業化とは 49. GitHub (2008年創業、ソフト開発プラットフォーム) GitHubは、ソフトウェア開発者がソースコードやバグの管理をするためのプラットフォームで、個人や企業を問わず無料で利用することができるものだ。今や知らないエンジニアを探すのがむずかしいほど世界的に普及しており、利用者は2800万人で急成長が続いている。Wikiやタスク管理ツールなどさまざまな支援サービスを提供するとともに、巨大な開発者コミュニティが形成されており、一種のエコシステムと言っても良いだろう。2018年にマイクロソフトが8200億円で買収したことで話題になった。 関連記事:MicrosoftがGitHubを買収するメリットは何か イノベーションに関する関連記事は こちら 08. "2018 Disruptor50" 資料の総まとめ (2018) 07. フォロー戦略で急成長する破壊者 (2018) 06. 際立った顧客サービスを持つ破壊者 (2018) 05. 常識を覆す低価格を実現した破壊者 (2018) 04. P2Pプラットフォームを持つ破壊者 (2018) 03. 独自のテクノロジーを持つ破壊者 (2018) 02. 業界を破壊する新興企業トップ50 (2018) 01. イノベーションの教科書、iWokrout
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著者ビジネス・ブレークスルー大学教授、現役起業家の斉藤徹です。人を幸せにしたいと願う起業家や社会人を育て、一緒に世界をもっと優しいところにする活動をしてます。 アーカイブ
8月 2021
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